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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2513号 判決

控訴人 東京都建設業信用組合

被控訴人 日本国有鉄道

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す、被控訴人は控訴人に対し金八十万円及びこれに対する昭和三十年六月五日から右完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出、認否、援用は、控訴代理人において、「控訴人は訴外大西建設株式会社と被控訴人との間の本件請負契約において、その請負代金債権譲渡禁止の特約があることを全く知らなかつたものであるから、被控訴人は右特約を以つて控訴人に対抗することはできない」と陳述した外、原判決事実摘示の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

訴外大西建設株式会社(以下訴外会社と略称する)と被控訴人との間の工事請負契約成立並びにその工事完了の事実、工事代金債権譲渡の事実及び右請負契約において、工事代金債権譲渡禁止の特約のあつた事実については、当裁判所はすべて原審とその認定を同じくするので、原判決理由中(一)、(二)の記載をこゝに引用する。

控訴人は、右債権譲渡禁止の特約の存在は控訴人の知らなかつたところであるから、これを以て控訴人に対抗することはできないと主張し、被控訴人はこれを争うので、この点について審究するに、原審証人飯塚家彬、同西岡正雄の各証言、控訴会社代表者の供述、及び右各証拠によつて真正に成立したものと認むべき甲第一号証並びに乙第一号証、成立に争のない甲第四号証を合わせ考えれば、訴外会社は被控訴人と前示請負契約を結ぶや直ちにその工事資金に充てるため控訴人に対して金融の申込をなし、これに対して控訴人は最初金二十七万円を貸し付けるとともに、その弁済を確保するために訴外会社から本件工事代金の受領委任を受けたのであるが、その後更に金五万円の融資を求められたので、その際控訴人は前示工事代金債権を控訴人に譲渡することを条件としてその貸付を承諾し、その結果前示認定のような債権譲渡が行われたものであること、しかして右融資に当つて控訴人が訴外会社から本件工事請負契約書(乙第一号証)を提出されて暫時これを預かつていたことはあるのであるが、右契約書は単にその工事請負契約の成立を確認する目的を以つて預かつたものである関係と、右契約書の記載条項が極めて複雑多岐に亘つておつたため、控訴会社の係員はその条項中に債権譲渡禁止の特約の存することを発見することができず、また訴外会社の何人からもその特約の存在について告知されなかつたので、その特約の存することを知らず、従つて右債権譲渡を受けることによつて貸付金の弁済を確保しうるものと信じて譲渡を受けたものであることを認めることができ右認定を覆えすに足る証拠はない。そうすると被控訴人は右譲渡禁止の特約を以つて控訴人に対抗することはできないので、右債権譲渡自体は有効というべきである。しかしながら、次に被控訴人は右債権譲渡の通知の効力を争うのでこの点について考えるに、成立に争のない甲第三号証の一、二によると右債権譲渡の通知は昭和三十年二月四日到達の書面を以つて譲受人である控訴人が譲渡人の代理人として被控訴人に宛てゝこれをなした事実を認めうるのであるが、右通知書にはその代理権を証明するに足るなんらの資料の添付もなく、その他右代理権を証明するなんらの手段も講じられた形跡の認むべきものがないので、被控訴人としては果して真実代理権ある者の行為なりや否やを知るに由なき状況であつたことを認めることができる。そうすると右譲渡通知は民法第四百六十七条の規定による適法な譲渡人の通知としての効力を有しないので、右債権譲渡はこれを以つて債務者たる被控訴人に対抗しえないものといわざるをえない。しかのみならず、右認定の事実と成立に争のない乙第六、第七号証、乙第十号証、当裁判所が弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第八、第九号証、同第十一ないし第十三号証を合わせ考えると、本件工事代金債権については、その後、訴外会社を債務者とし、被控訴人を第三債務者とする被控訴人主張のような各債権差押並びに転付命令の送達があり、被控訴人は、右工事代金債権の債権者はなお訴外会社であると信じており、またかく信ずるについては相当の理由があつたものであるから各転付債権者の請求に従つて、右工事代金をこれに対して支払つたことを認めることができる。

そうすると右各弁済はいずれも債権の準占有者に対する善意の弁済というべきであるからこれによつて本件工事代金債務は消滅したものと認めざるをえない。されば控訴人の本訴請求は結局失当であつて、原判決は結論において正当であるから、本件控訴はこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用し、主文のとおり判決した。

(裁判官 岡咲恕一 亀山脩平 脇屋寿夫)

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